総会記念講演 鎌田耕一先生「キャリアを活かす労働市場の法政策とは~キャリア権の具体化に向けて~」開催報告
2023年6月12日 当NPOの令和5年度総会 記念講演において東洋大学名誉教授 鎌田耕一先生より「キャリアを活かす労働市場の法政策とは~キャリア権の具体化に向けて~」についてご報告がありました。
〇「だれにとってもキャリアは大切、その自律的な設計をどう支援していくのか」が今日の話のテーマ。
〇「キャリア権」は、個人がこれまで辿ってきた職業キャリア(職業経歴)を活かし、職業生活の設計を行い、希望する職業(キャリア志向)を自由に選択できる制度・仕組みの構築を求める権利。
〇これを具体化する法政策について、
(1)企業組織内
(2)労働市場全体
(3)非正規労働
の三つの側面から述べたい。
(1)企業組織内
「アメックス事件」での司法判断(東京高判令和5年4月27日)。(育休からの復帰後、閑職に回された原告が均等法の「不利益取扱い」違反で訴えたのに対し、第1審は給与面で不利益がないことを理由に棄却した。しかし、控訴審は、妊娠前まで実績を積み重ねてきた労働者のキャリア形成を損なうものとして「不利益取扱い」に該当するとした)
→「キャリアは財産」という考え方が広がっていることを実感。その延長線上に「組織内キャリアの再交渉制度」を構想したい。内容としては、若いうちは会社指示による配置換え等により、様々な仕事を経験するが、一定年齢に達した時に、意に沿わない配置換えはせず、限定された職務に従事することができるよう、契約内容の変更を請求したときは、使用者が交渉に応ずる義務規定の新設。
(2)労働市場全体
政府が5月に発表した「労働市場改革の指針」には「働き方は大きく変化している。『キャリアは会社から与えられるもの』から『一人ひとりが自らのキャリアを選択する』時代となってきた」とある。
キャリアを活かす労働市場(内部労働市場、外部労働市場)の設計が求められている。
転職の場面を考えると、キャリアの客観化・社会化が必用。
それを促すためにも、求人企業・人材サービス事業者の募集情報の的確表示として「キャリア表示義務」を加えてはどうか。
(3)非正規労働等
職業キャリアが断絶している経済的弱者にとってもキャリアは大切(教授はこれを「筍」を育む「地下茎」に喩え、いわば人々の「アイデンティティー」だとした)。公的な支援策の一つとして、生活を維持しながらキャリア形成を図る「求職者支援制度」を拡充すべき。
【菊池理事との質疑応答】
菊池理事:「リ・スキリング」が盛んに言われているが、スタート地点でマイナスだった人たちにとって、こうした動きは福音と言えるのか。
→ そう思う。生活困窮者支援の現場を経験して思うが、経済的弱者は「保護」だけを望んでいるのではない。自立のためにキャリアを形成するチャンスを掴めるように、そのためのツールを提供することが大切。
菊池理事:日本経団連は今後、終身雇用は難しい、メンバーシップ型からジョブ型に変わっていかざるを得ない、という考え方を示しているが、そういう中で個人が考えなければならないこととはどういうことだろうか。
→日本型雇用も、スキルのない新卒を採用し、異動を繰り返しながら育成していくという仕組みは優れていると思う。
ただ働き始めてから10年、15年経ったときに、個人がどこに生きがいを求めていくのか、それを企業はどう受け止めるのか、その辺りの企業との対話・交渉をしていくことが重要になるのではないか。
先ほどの「組織内キャリアの再交渉制度」もそういうところから発している。
再交渉の時期を見据えて、個人は早くから自分のキャリアをどう設計するか考えていく覚悟も必要だろう。
以上開催報告でした(文責は編集担当)。