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《トップインタビューシリーズ 2》

「能力を高め、職業人生を継続的に築いていける社会の実現を」

UAゼンセン 会長 逢見 直人 様



−近年の「キャリア」に対する関心の高まりについて、逢見会長はどのように見ていらっしゃいますか?


 「キャリア」が社会的な関心を寄せている背景には大きく二つの変化が挙げられます。それは、終身雇用の実質的な崩壊と雇用形態の多様化です。終身雇用の実質的な崩壊とは、定年までの職業人生を一つの会社に委ねていた時代が終わりを告げ、能動的・主体的に自らの職業人生を歩む努力が個人に求められるようになったということですね。また雇用形態の多様化とは、正社員を中心とした雇用構造からパート・アルバイト、派遣など多様な働き方を選ぶ個人が企業で活躍できる時代になったということです。こうした終身雇用の崩壊と雇用形態の多様化に代表される日本的雇用慣行の変化が、キャリアに対する社会的な関心を生んでいるのではないでしょうか。

−なるほど。ただ、「キャリア」という言葉の本質が十分に理解されないまま、それぞれの立場が使い勝手の良い解釈で用いている印象を感じざるをえません。逢見会長ご自身は、「キャリア」についてどのような考えをお持ちですか?

 「職業人生」と「能力」の二つの観点から考えることが重要だと思います。より良いキャリアを歩むということは、能力を最大限に発揮しながら、継続的な職業人生を送るということです。今後、あらゆる業態・職種で加速する仕事の高度化・複雑化に対応するためには、最大限に職務能力を高め、発揮することが重要になります。それは、どのような雇用形態で働く上でも求められることです。ただし、エンプロイアビリティという言葉が流行した90年代以降、どうも「能力発揮」の意味が自己責任論として用いられる印象があります。しかし、考えてみれば分かるように、私たちは普通、失敗の許されない環境で能力を最大限に発揮できるような挑戦なんてなかなかできませんよね。したがって、セーフティネットとしての雇用の安定(継続的な職業人生)が必要となるわけです。ただし、雇用の安定に胡坐をかいて、「能力発揮」しなくなることは本末転倒です。その意味で、「継続的な職業人生」と「能力発揮」はどちらが欠けても豊かなキャリアを歩むことはできないと思います。

−能力を高め、継続的な職業人生を築いていくというお話には非常に共感します。それでは、逢見会長率いるUAゼンセン(正式名称:全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)についてお伺いします。同組合は、多様な産業に従事する労働者によって組成された労働組合として知られています。具体的に、労働者にとって豊かなキャリアを歩むために、どのようなお取組みをされてきたのでしょうか?

 繊維産業を例に挙げてお話しします。同産業は他産業に比べて、景気変動の影響を直接的に受けやすいという特徴があります。古くは1970年代に勃発した日米繊維戦争やオイルショック、また1980年代には中国からの輸入増加による国内産業の空洞化など、国内繊維産業は常に外部環境の変化に晒され、対応・進化していく必要性に迫られていました。欧米であれば、景気が低迷する段階で事業の閉鎖と同時に社員を解雇し、新たな事業に必要となる人材を別途採用するという手法を取るのが一般的です。しかし、日本企業の場合は違います。社員の雇用安定を前提に、成長分野へ既存の社員を再配置し、新たな仕事を通じて能力を高める努力をしてきました。個人の立場からすれば、これまでの経験やスキルが全く活かせない環境への異動を命じられるわけですから、一時的には痛みを伴うこともあるでしょう。しかし、長い目で見れば「継続的な職業人生」と「能力発揮」を実現していたと考えることができます。

―たしかに繊維産業と言えば、様々な成長分野へ事業を多角化することに長けている印象があります。しかし、長引く経済の停滞により、事業領域の拡大を通じて社員のキャリアを開発することができる企業はごくわずかと言わざるを得ない現状です。加えて、雇用形態の多様化が大きく進展していますよね。

 おっしゃる通りです。例えば、流通産業は、パート・アルバイトや派遣社員の従業員比率が高く、雇用形態の多様化が最も進んでいる業界の一つです。人材の流動性が高い同産業に対して、私たちは「専門職化」をキーワードに、企業を超えて転用可能な「能力の見える化」を推進しています。例えば、ある地域のショッピングセンターが店舗を閉鎖するという場合、そこで働いている社員の多くが転職を余儀なくされます。ただし、就業可能なエリアが限定的なパート・アルバイトにとって一定の範囲を超えた転職はなかなかできません。ですから、同じ地域にある同業態・同職種の仕事にスムーズに移ることができれば最も望ましいわけです。
 しかし、残念ながら業態・職種毎にどのようなスキルが求められるのか、またそれをどう評価するのかといったことが不透明であり、結果として望ましい労働移動が行われていませんでした。そこで、私たちUAゼンセンでは、業態・職種ごとに必要とされる能力の見える化と能力発揮度を適正に評価する仕組みを整えることで、スムーズな労働移動を支援していきたいと考えています。

−いま逢見さんがおっしゃったパート・アルバイトや派遣社員の能力発揮は、個人のキャリアという観点だけでなく、企業の競争優位性を左右する重要なカギになると言えます。しかし、これだけ雇用形態が多様化してきたとはいえ、まだ多くの企業で十分に非正規社員の能力を最大限に発揮できる仕組みを整えているとは言い難い状況です。

 はい。その背景には、非正規社員として働くことに対する企業側のステレオタイプ的な発想があるのではないでしょうか。それは、「仕事や役割に対して責任感がない」「会社へのロイヤリティが低い」など、仕事や働くことに対するネガティブだという人間観です。しかし、実際に私たちが行った調査によると、そうした俗説とは全く異なり、「与えられた仕事や役割を全うすることに対して責任感は高い」「会社へのロイヤリティは高い」という結果が出ています。

―非正規社員として働くことに対するある種のステレオタイプ的な発想も、職務とそれに必要な能力が見える化されていないことによって生まれている問題かもしれませんね。本来、重要な職務能力以外の要素で非正規社員が成長に評価されていないのだとすれば、それは非常に残念なことです。

 そうですね。非正規社員の能力を最大限に発揮するために、私たちにできることはまだたくさん残されています。我々UAゼンセンとしても多様な働き方を通じてより良いキャリアを歩める社会を創るために、「能力の見える化」と「能力開発」を今後さらに推進していくつもりです。

−「能力の見える化」や「能力開発」の必要性は、非正規社員に限った話ではなく、正社員を含めた日本の労働市場全体に言えることですね。以前、私たちがミドル世代を対象に行った調査によれば、キャリアチェンジの実現には「キャリア意識」と「ポータブルスキル認識」が必要だという結果が明らかになりました。自らのキャリアを主体的に考え、他社でも通用するスキルを軸に自身の強み・弱みを認識(克服)しながら成長できる人材というイメージですね。では、そうした人材を育成するために、企業として行うべきこと、また国や行政に求めることとは何でしょうか?

 企業に対して求められることは大きく3つです。まず、キャリア形成に意欲的な個人に対する機会の提供です。チャレンジングな仕事の機会を積極的に与えることです。次に、ワークライフバランスの推進です。日本は先進国の中でワークライフバランスの推進が最も遅れている国の一つです。それが如実に表れているのが、例えば有給休暇の取得率の低さです。国際会計基準(IFRS)を導入している企業では、未消化分の有給休暇は負債となるため、社員の有給取得を前提としたオペレーションが徹底されています。それを可能にするには、職務区分の見える化が必要です。日本企業の場合、ジョブ型ではないため、なかなか進まないという考え方もありますが、意識の問題ではなく、「経営の仕組み」の問題として真剣に考え、対策を講じる必要があるのではないでしょうか。企業に求められる3点目は、社外で学ぶ社員へのサポート充実です。我々が実施した社会人大学院生向けの調査の結果、社会人大学院に通う社員に対して会社は何のサポートもしていないという回答が非常に多かったのが印象的でした。大学教員などで導入されているサバティカル休暇のような制度を導入することを検討してみてはいかがでしょうか。
 最後に、国や行政については、特に外部労働市場向けの人材に対する能力開発や雇用確保の急務が求められます。職業訓練給付金を拡充し、学び直しする社会人に対する助成金を増やす政策が打ち出されるなど望ましい政策も見られます。今後もそのような動きを期待したいところです。

―非正規社員として働くことに対するある種のステレオタイプ的な発想も、職務とそれに必要な能力が見える化されていないことによって生まれている問題かもしれませんね。本来、重要な職務能力以外の要素で非正規社員が成長に評価されていないのだとすれば、それは非常に残念なことです。

 そうですね。非正規社員の能力を最大限に発揮するために、私たちにできることはまだたくさん残されています。我々UAゼンセンとしても多様な働き方を通じてより良いキャリアを歩める社会を創るために、「能力の見える化」と「能力開発」を今後さらに推進していくつもりです。

−「能力の見える化」や「能力開発」の必要性は、非正規社員に限った話ではなく、正社員を含めた日本の労働市場全体に言えることですね。以前、私たちがミドル世代を対象に行った調査によれば、キャリアチェンジの実現には「キャリア意識」と「ポータブルスキル認識」が必要だという結果が明らかになりました。自らのキャリアを主体的に考え、他社でも通用するスキルを軸に自身の強み・弱みを認識(克服)しながら成長できる人材というイメージですね。では、そうした人材を育成するために、企業として行うべきこと、また国や行政に求めることとは何でしょうか?

企業に対して求められることは大きく3つです。まず、キャリア形成に意欲的な個人に対する機会の提供です。チャレンジングな仕事の機会を積極的に与えることです。次に、 ワークライフバランスの推進です。日本は先進国の中でワークライフバランスの推進が最も遅れている国の一つです。それが如実に表れているのが、例えば有給休暇の取得率の低さです。国際会計基準(IFRS)を導入している企業では、未消化分の有給休暇は負債となるため、社員の有給取得を前提としたオペレーションが徹底されています。それを可能にするには、職務区分の見える化が必要です。日本企業の場合、ジョブ型ではないため、なかなか進まないという考え方もありますが、意識の問題ではなく、「経営の仕組み」の問題として真剣に考え、対策を講じる必要があるのではないでしょうか。企業に求められる3点目は、社外で学ぶ社員へのサポート充実です。我々が実施した社会人大学院生向けの調査の結果、社会人大学院に通う社員に対して会社は何のサポートもしていないという回答が非常に多かったのが印象的でした。大学教員などで導入されているサバティカル休暇のような制度を導入することを検討してみてはいかがでしょうか。
 最後に、国や行政については、特に外部労働市場向けの人材に対する能力開発や雇用確保の急務が求められます。職業訓練給付金を拡充し、学び直しする社会人に対する助成金を増やす政策が打ち出されるなど望ましい政策も見られます。今後もそのような動きを期待したいところです。

―非正規社員として働くことに対するある種のステレオタイプ的な発想も、職務とそれに必要な能力が見える化されていないことによって生まれている問題かもしれませんね。本来、重要な職務能力以外の要素で非正規社員が成長に評価されていないのだとすれば、それは非常に残念なことです。

 そうですね。非正規社員の能力を最大限に発揮するために、私たちにできることはまだたくさん残されています。我々UAゼンセンとしても多様な働き方を通じてより良いキャリアを歩める社会を創るために、「能力の見える化」と「能力開発」を今後さらに推進していくつもりです。

−「能力の見える化」や「能力開発」の必要性は、非正規社員に限った話ではなく、正社員を含めた日本の労働市場全体に言えることですね。以前、私たちがミドル世代を対象に行った調査によれば、キャリアチェンジの実現には「キャリア意識」と「ポータブルスキル認識」が必要だという結果が明らかになりました。自らのキャリアを主体的に考え、他社でも通用するスキルを軸に自身の強み・弱みを認識(克服)しながら成長できる人材というイメージですね。では、そうした人材を育成するために、企業として行うべきこと、また国や行政に求めることとは何でしょうか?

企業に対して求められることは大きく3つです。まず、キャリア形成に意欲的な個人に対する機会の提供です。チャレンジングな仕事の機会を積極的に与えることです。次に、 ワークライフバランスの推進です。日本は先進国の中でワークライフバランスの推進が最も遅れている国の一つです。それが如実に表れているのが、例えば有給休暇の取得率の低さです。国際会計基準(IFRS)を導入している企業では、未消化分の有給休暇は負債となるため、社員の有給取得を前提としたオペレーションが徹底されています。それを可能にするには、職務区分の見える化が必要です。日本企業の場合、ジョブ型ではないため、なかなか進まないという考え方もありますが、意識の問題ではなく、「経営の仕組み」の問題として真剣に考え、対策を講じる必要があるのではないでしょうか。企業に求められる3点目は、社外で学ぶ社員へのサポート充実です。我々が実施した社会人大学院生向けの調査の結果、社会人大学院に通う社員に対して会社は何のサポートもしていないという回答が非常に多かったのが印象的でした。大学教員などで導入されているサバティカル休暇のような制度を導入することを検討してみてはいかがでしょうか。
 最後に、国や行政については、特に外部労働市場向けの人材に対する能力開発や雇用確保の急務が求められます。職業訓練給付金を拡充し、学び直しする社会人に対する助成金を増やす政策が打ち出されるなど望ましい政策も見られます。今後もそのような動きを期待したいところです。

−これまで日本的雇用慣行の変化を背景にしたキャリアに対する社会的な関心の高まりやより良いキャリアを歩むための自助・共助・公助の役割についてお聞きしました。また、労働人口の減少を背景に、女性の労働市場への進出が求められるようになりましたが、あまり事態は進展していません。逢見会長はそうした現状に対してどのようにお考えでしょうか?。

 「男性片働き社会」から、女性の労働市場への参入を促し、共働きで家族を支える社会へと変化することが求められます。しかし、現実には女性の就労促進を妨げる様々な要因があります。例えば、「103万円問題」があります。実際に103万円を目前に就労調整を図る方が多いようですが、その要因は税制上の配偶者控除以外にもあります。それは、企業各社の家族手当の支給要件です。103万円を超える所得のある配偶者がいる場合、家族手当の支給対象から外すという企業独自の条件を設定しているケースが多くみられます。配偶者控除の問題は、103万円の引き下げを巡って政府が本格的な議論に踏み切ったばかりですが、その進展を見守る前に企業各社の賃金制度の見直しによって改善できることから始めてみてはいかがでしょうか。

−逢見会長のおっしゃる「継続した職業人生の形成」と「弛まぬ能力の向上」をこの国で働く一人ひとりが体現できる社会を創るために、「キャリア権」の今後の普及に努めていきたいと思います。ありがとうございました。

キャリア権はこれから日本の世論を形成する可能性を大いに秘めていると信じており、今後の発展を期待しています。本日はどうもありがとうございました。

※インタビュアー:須東 朋広

【略 歴】
UAゼンセン会長 逢見 直人様プロフィル

1976年一橋大学社会学部卒業後、ゼンセン同盟書記局に入られ、UIゼンセン同盟常任中央執行委員(政策局長)、「連合」副事務局長等を経て、2012年11月に現職に就任されました。
行政減量効率化有識者会議委員、産業構造審議会臨時委員、社会保障審議会委員、中央環境審議会臨時委員、官民競争入札等監理委員などを歴任、現在、労働政策審議会委員としてもご活躍中です。
主な著作は、「労働運動用語事典 」(著・編集、富士社会教育センター 、2012年)、「労働とCSR」(谷本寛治『CSR経営』、中央経済社所収、2004年)、「現代日本のマクロ・コーポラティズム」(稲上毅他『ネオ・コーポラティズムの国際比較』、日本労働研究機構所収、1994年)他。



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