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《諏訪康雄先生((当NPO理事長:法政大学名誉教授)のシリーズエッセイ9》

「新卒採用方式の見直しと「人財」や「人才」との関係」


大学・大学院の新卒採用方式が揺れています。2020年度以降、どうなるのかと、関係者が注目しています。

経団連(経済団体連合)が新卒採用をめぐる従来方針を取り続けないことにした以上、新卒労働市場の変化は徐々に起きていくだろうと予測されます。

とはいえ、従来からの新卒採用方式がいわば採用プロセス、就職活動プロセスの進行をめぐる問題であるのに対して、採用基準などの側面はどう変わるのでしょうか。

■ 採用基準の特徴

経団連は、会員企業の新卒採用をめぐる重視事項について、アンケート調査を重ねてきています。それによると、2019年入社予定者の採用をめぐっては、次のような事項を重視して、選考を重ねたようです。

(図表1)新卒採用にあたっての経団連会員企業の重視事項(5つまでの複数回答)

出所)経団連「2018年度新卒採用に関するアンケート調査」結果、6頁の表を引用

これをみると、1位の「コミュニケーション能力」(82.4%)が抜群に多く、次いで「主体性」(64.3%)、そして「チャレンジ精神」(48.9%)と続いています。これらを含め、1位から10位までを一覧表にすると、以下のとおりです。

(図表2)重視事項のベスト10
--------------------------------------
 1位 コミュニケーション能力 B
 2位 主体性 @
 3位 チャレンジ精神 @
 4位 協調性 B
 5位 誠実性 B
 6位 ストレス耐性 B
 7位 論理性 A
 8位 責任感 B
 9位 課題解決能力 A
10位 リーダーシップ @
--------------------------------------
出所)図表1から上位10項目を抜き書き(末尾番号は筆者)

■ 企業は、どんな人材を欲しがっているか?

錚々たる大企業が会員企業になっている以上、毎年、調査がなされ、発表されるこの数値は、学生や大学にとって軽視することのできないもののはずです。

その特徴は一言でいえば、「人材」すなわち、企業が採用し、配置し、社会人としての成育と活躍の機会を与えるに足る「人的な素材」あるいは、将来的に企業活動を支える「人財」となるための必須要件は、かつて経済産業省の研究会が提起した「社会人基礎力」の3要素をもつかどうかにほぼ尽きているようです(最近も、その基本線を維持した社会人基礎力2.0が、同省の研究会で確認された)。

図表2の各項目の末尾にふった番号@〜Bは、それぞれ、@前に踏み出す力(指示待ち人間は困るよね)、A考え抜く力(マニュアル人間は困るよね)、Bチームで働く力(唯我独尊の人間は困るよね)といった、3つの要素に対応する能力要素と思われます。

このように分類すると、新卒採用時に重視するベスト10には、チームで働く力のBが5項目、前に踏み出す力の@が3項目、考えぬく力のAが2項目という配分になっています。協調能力ファーストといった意識が如実に反映しています。

学生が進学に当たり相当に重視する、専攻科目による「専門性」は圏外(12位、12.0%)であり、大学側が採用にあたりもっと重視すべきだと口をきわめて主張してきた「履修履歴・学業成績」はさらに下位(17位、4.4%)でしかありません。

ちなみに、上位5項目の過去の傾向はどうでしょうか。コミュニケーション能力はぶっち切りの1位を2004年からずっと保ち、主体性が2010年以降、2位の座を保っています。そして、こうして抱え込んだ人材を「人財」化すべく企業は努力しているように思われます。

(図表3)21世紀の新卒採用重視事項(ベスト5の動向)

出所)経団連「2018年度新卒採用に関するアンケート調査」結果、2頁の表を引用

■ 人足→人手→人材→人財→人才

産業機械のない時代の労働は、人力に頼る局面が多く、そうした働き手は「人足」と呼ばれました。多くの人は「足」に代表される筋力の強弱で評価されたのでした。

その後、ものづくりの世界では、人力は手先の器用さに代表されるような「手」で評価され、「人手」と呼ばれるようになりました。今でも人手不足という表現が残っています。

産業革命後は大組織の時代となり、組織が人を育て、能力開発をする実情を反映して、人間を加工対象の素材であるかのごとく「人材」と呼ぶようになりました。

それら人材が仕事を通じた育成により付加価値の高い業務ができるようになれば、「人財」と称され、人的資産のコアに置かれようになります。

ですが、足から手へと能力評価の指標が上向してきた以上、さらに人工知能(AI)やロボット化が現実化し、人間らしさそのものこそが労働力の価値となり、仕事においてもこれが重要視されるようになれば、人を「頭」や「心」と結びつける表現こそがより適切になるのではないでしょうか。

ただし、「人頭」も「人心」もすでに別の意味をもっていますから、創意工夫の知恵やおもいやりの心を備えたタレント(才能)を示す表現としては「人才」といった言葉も考えられます(中国語では人材の意味でこの語を使うと聞く)。

このように時代変化は、人間労働の性質と位置づけを変えます。人をめぐる評価と能力開発の意義や目標もまた、大きく変化していくことでしょう。かなり以前から、世界的なウォー・フォー・タレント(人才獲得戦争)は盛んに喧伝されてきたところです。

少なからぬ企業経営者は、この動きを痛感し、従来型の報酬体系とは別の観点から才能ある人を評価し、採用する動きをみせはじめました。現在のところ、AI、ビッグデータ、ロボティクスなどの先端分野の社員採用にとどまるようですが、経営戦略企画、組織開発などや他の専門職についても似たような動きが続くかもしれません。

■ 「人才」採用の動きはどうか?

とはいえ、経団連会員企業の新卒採用における重視事項の現状からわかるとおり、そのように尖がった能力をもつ人才の採用が拡がるには、まだ時間がかかりそうです。

何しろ、図表1にあるように、採用における「創造性」重視は14位(11.1%)にとどまっていますし、先にみたとおり、専門性も、成績も、低位です。

このように現在もなお、企業は、正社員採用の主流として、いわゆるジョブ型でなく、主にメンバーシップ型にかなった人材を採用し、人間関係構築型で働き、組織運営に必要な業務を何でもそつなくこなせるような、使い勝手のよい人財となってくれることを期待しているのが実情のようです。

そう考えますと、戦略や企画の立案、イノベーションの考案などにおいて、企業の多くが「社内人材が育っていない」「必要とされる人財が不足している」と嘆くのは、そもそも社会人基礎力の考え抜く力Aさえもあまり重視せずに人選をしてきているのですから、社内でその後、その種の力をつけさせるためのキャリア形成によほど力を注がない限り、その種の人材が出てこなかったとしても不思議ではないのです。

ですから、ないものねだりのぼやきばかりしていないで、採用基準(人材・人財・人才らの要件)を見直し、その後のキャリア形成方式を工夫し、より多くの人財や人才の確保、出現に意を注ぐことが肝心なようです。

もちろん、新卒就職戦線に出向く側も、これからの時代変化を考え、自分なりに学び続け、工夫し続けることの価値をよく理解し、少しずつでも実践する姿勢が大事だと思われます。

何しろ、職業能力開発促進法(3条の3)は「労働者は、職業生活設計[キャリア・デザイン]を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発及び向上に努めるものとする」とし([ ]内は引用者)、若者雇用促進法(3条)は「青少年である労働者は、将来の経済及び社会を担う者としての自覚を持ち、自ら進んで有為な職業人として成育するように努めなければならない」と規定される時代なのですから。

付言しますと、採用する側の担当社員だって、「労働者は、高齢期における職業生活の充実のため、自ら進んで、高齢期における職業生活の設計を行い、その設計に基づき、その能力の開発及び向上並びにその健康の保持及び増進に努めるものとする」という高年齢者雇用促進法(3条2項)をよく噛みしめる必要があります。

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