《諏訪康雄先生((当NPO理事長:法政大学名誉教授)のシリーズエッセイ8》 「焦らず、怠けず、習慣化」 生涯学習、学びなおしなどが、ようやく世間の関心を高めつつあるようです。 とはいえ、リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査2018年」(n=50,677)によると、自己学習(自己啓発)、Off-JT、OJTのどれもを行っている人はわずか7.1%なのに対して、どれもしていない(生涯学習の放棄者)は51.1%もいます。 働く人の半分もが、仕事のための勉強はまるでしていません。つまり多くの人びとは、仕事への現在の対応だけにとどまり、将来にありうる事態に備えようとはしていないようです。 これでは、予想されている仕事の世界の激変についていけないリスクを高めているのでは、とちょっと心配になります。 *** とはいえ、学習にはお金、時間、意欲・精力(エネルギー)がいります。 お金は、図書館や放送大学視聴やネット上のTEDなどを使えば、ほとんどかからないですが、これを日常的に実践している人は、そう多くないようです。 時間は、通勤時間や風呂・トイレ時間、細切れ待機時間、寝る前の時間などを意図的に活用すれば、1日に1時間やそこらは容易に生み出せます。現に、労働時間が長めの人ほどむしろ勉強している という調査結果は、けっこうあります。 問題は精力。日々の目先の仕事(有償・無償の労働)や生活で精力を使いはたしたり、何か気がかりなことがあったりすると、課題処理能力も実行制御能力も落ちます。 課題に取り組む元気が出ず、自己管理をする力も下がるのです。 では、ワークライフバランス(WLB)や週休二日が確保されれば、生涯学習にもっと取り組むようになるかというと、それほどでもないのが実情です。 取り組む意欲は、必要性を感じなければ湧いてこないし、緊急性がなければ開始時の心のはずみ車を回すほどにはならないようです。 *** 共時・共場・共験・共友(きょうじ・きょうじょう・きょうけん・きょうゆう=同じ時間帯に、同じ場所に集まり、同じ学習経験をし、人脈もできていく動き)は、学ぶ意欲の増進と継続の近道ですが、社会人で学校に通ったり、勉強会に出る人はそう多くないです。 しかも、勉強しなければならない課題は増大するばかりなのが厄介です。 一挙に全部をやれるわけはないし、多少勉強したくらいでは実務の使い物にならないからです。 それに膨大な課題や難解な知識・技術をみれば、どうしても、しり込みしてしまいます。 そこで、生涯学習の現実的方法としては、 (1)基盤となる勉強は、学校時代や若き日に培っておき(培ったことにして)、 (2)社会に出たら、天引き貯金ならぬ「天引き時間活用法」や、貯金箱小銭貯金ならぬ「細切れ時間活用法」で、日々に少しずつ勉強を重ね、 (3)必要に応じて、少し先をみわたして、ちょっとずつ段階的に、勉強内容を拡げたり、積み上げたりし、 (4)緊急性の高い課題に対しては、夏休みの宿題に対応したスタイルや定期テストに対応したスタイルで取り組む(やむえず、にわか集中で学ぶ)、 といった姿勢をとっていくことが通例でしょうか。 年齢や時代の進行につれて必要となる学習についても、それが意識に上ったり、目先にチラつき始めたころに対応するのでいいから、焦らず、少しずつ学んでいくほかありません。 学習でも何でも、人生の課題には、一種の開きなおり的な姿勢を保持することがよいのでしょう。 学びなおしは、いつからでも始められます。 いつでもずっととか、一挙に全部をとかと気張ったら、結局は、all or nothing に終わるのが、オチなようです。 少なくとも、自分の場合は、そうでしたね。 リレーエッセイに戻る |