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《キャリア権雑録3》
能力成長指数の推計

 いつの時代に生まれ育つかは、個人にとってまったくの偶然ですが、時代の運がもたらす相違はじつに大きいようです。

 高度成長期の日本や現在の中国やインドのような成長期の社会や組織にあれば、人びとには大きな仕事がたえず降ってわいてきやすくて、それに翻弄されながらもどうにか対処しているうちに、より大きな仕事能力がつくし、より高い報酬も期待できます。

 ただし、同じように恵まれた時代にいたとしても、誰にでも同じように能力がつくわけではないでしょう。やはり個人差が意欲と努力と基礎能力や適性などにおいてあるからです。個人差は、当初はわずかです。しかし、小さな差異であっても、何年も重ねられていくと、いつしか信じられないほどの大きな格差となります。

 時代や組織に恵まれない場合、仕事がチャレンジングでない結果、人材の質が上がらない可能性もあります。ルーティンワークを繰り返すばかりでは、職業を平均して12年ほどで仕事能力の頂点に達し、その後は緩やかに下がっていくという推計もよく語られます。

 ですから、企業と個人において、さまざまな工夫や努力をしないと、30代半ばころには、多くの人は能力の頭打ちや、下降状態に入っていってしまうようです。

 給与水準が能力水準に多かれ少なかれ対応するとみますと、年功序列慣行が完全に姿を消すと、多くの人の給与水準もまた、30代半ばころには、頭打ちや下降状態に入っていく可能性があります。

 そこで、年功序列制を維持したいとする場合の、能力的な前提を考えてみました。

 一世代(ワンジェネレーション)を30年とすると、人びとにおける30年間の努力の差はまことに大きいです。私たちの周囲を見渡せば、時間の経過とともに相当な差がつくことは、日常的に経験するところです。この能力伸張度を経済成長と同様に、数値であらわして確認してみてみましょう。結果は、驚くほどのものです。

 最初は同じように100の力をもっている2人がいたとして、片方は年率平均1%で成長し、他方は2%で成長したとします。2人の差は、年にしてわずか1%の差異にすぎません。ですが、まさに人一倍がんばった状態の2%成長人材である後者は、30年後には大きく前に行っています。

 仮に力量の蓄積差は、貯金額の複利計算結果と同様だと考えると、1%成長人材の前者は、当初の力を100とすると、30年後には134の能力となっています。これに対して、2%成長人材の後者は、なんと178に達します。その時点でこなせるであろう仕事の量も質も、大幅に違っていることでしょう。

 さらにもう1人は年率3%で成長したとします。すると、年1%成長人材とくらべ、年にしてたった2%ポイントの差に過ぎないのですが、30年後には、236の能力にまでなっています。

 年功序列制度の報酬体系の前提には、この種の能力伸長の予測や期待があったのでしょう。加えて、同期入社者の間では人材の伸び率がほぼ同じとみるか、または、平均値と大きくかけ離れていないとみなしていたものと思えます。

 そこで、年功序列制度の報酬体系の前提となる能力成長率を賃金カーブと対比してみますと、統計的に比較しやすい大卒男性の場合であると、統計結果から年3%程度とみているらしいところがうかがえます。

 すなわち、大卒20-24歳層の平均月収は、男性の場合、規模計で22万2900円ほどであり、30年後の50-54歳層で頂点に達すると同53万1700円ほどとなっていますので(厚生労働省「平成20年度賃金構造基本統計調査」)、前者を100と指数化すると、後者は239になっています。

 こうした年功賃金制度の場合、年率3%ずつ以上、働く人びとの職務処理能力つまりエンプロイアビリティが高まっていないと、企業は払いすぎだと感じるようになることでしょう。後輩社員らも、先輩たちはもらいすぎだと感じるかもしれません。

 他方、年率5%という能力の高度成長を30年間も続けられる人が仮にいたとしたら、30年後にはその人の能力は412にも達していますので、上記の統計で換算すると、その人は能力伸長に見合った91万8000円ほどの月給をもらわないと、処遇に不満を抱くことも考えられます。

 もちろん、年1%ずつしか成長しなかった人は、ほんらい30万円程度の仕事能力しか身につけなかったのですから、平均額の53万円はまったくもらいすぎだと周囲からはみられてしまうでしょう。

 また、支払能力からいうと、企業がこの間に年率3%以上の成長を遂げていたならば、統計で確認した程度の年功序列の賃金カーブは維持できます。これ以上に成長したならば、それだけ利益も上がっていることでしょう。しかし、もし業績が低迷すると、これが難しくなります。賃金カーブを維持するどころか、寝かせていくことを企図するでしょう。

 従業員がしっかり成長しているのに、それに見合った報酬を提供できない会社は、やがて従業員のモラールダウンを招くか、従業員の離職を呼び起こすか、あるいは標準的な報酬水準に達するためのビジネスモデルの組み換えや経営者の交代などを招来していきます。

 あるいは、国中でこのような状態になれば、人びとの能力伸張もどこかで止まり、やがては経済成長率も低下していくことになるかもしれません。

 キャリア権の視点からは、能力伸張すなわちキャリア形成を可能とする、国の政策、企業の人事政策、そして個人のキャリア戦略が課題となります。(KO)

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